奈津美は晃に会うため、駅のロータリーに立っていた。
免許を取ったばかりの晃は、先輩から譲ってもらった中古車に乗り、奈津美を迎えに来た。
ドライブデートのはずが、どう言うわけか愁の住むマンションへ辿りつく。
晃の言い訳を聞きながら、奈津美は晃の後を追い、愁の部屋に入った。

「わざわざごめんね」

テーブルを挟んだ向かい側に座る愁は、スエット姿で髪はボサボサだ。
入ってきた二人に気付き、顔を上げたが、奈津美と目を合わそうとせず、瞳は遠くを見ているようだった。

「なに?先輩、風邪ですか?」

愁の様子から、具合が悪くて寝ていたのではないかと思い、奈津美は労りの眼差しを向ける。

「違うよ。昨日から寝てないんだ」

愁は、テーブルに視線を落とし、掠(かす)れた声音でぼそりと言葉を落とす。
晃に促され、奈津美も腰を下ろしたが、かける言葉が見つからず、頭(こうべ)を垂れたままの愁に視線を向けていた。

どれくらい時間が経っただろう。



「奈津美ちゃんごめん」

愁は、勢いよく言い放つと同時に、額がテーブルに着くすれすれまで頭を下げた。
急に愁に謝られた奈津美は戸惑い、何か言おうにも言葉も出ない。そんな奈津美の横で、晃がこう言った。

「先輩を責めないであげて」


……………は?……………


目を丸くして固まる奈津美に気付くことなく、愁は抑揚のない声音で続けた。

「悪いのは俺。香澄ちゃんは悪くない」

愁は、俯いたまま顔を上げようとしなかった。
石のように固まったまま、微動だにしない愁に視線を向けたまま、奈津美は、頭をフル回転させる。


…………は?かすみって……


…………何の話?……


小さなローテーブルを囲むように座った三人は、異様な空気に包まれていた。





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