……テスト期間なげーよな……今日も勉強すんだろーしな…………


司は、年末年始の忙しい時期を乗り切り、時間的に余裕が出来ていた。逆に香澄はテスト期間に入り、夜中まで勉強をする日々が続いている。

司はハンドルを握りしめ、相手をしてもらえない自分を思い返す。自分に家事が出来れば、香澄の負担を減らすことも出来るのだろうか。


……先に勉強させて、俺が家事をやればいいのか?……


……けどなー、…やったことねーし……


衣類はクリーニングを利用し、休日以外は外食で済ませ、自宅に帰れば寝るだけのような生活をしていた司が、香澄の代わりに炊事洗濯掃除など出来るだろうか。


……俺が何かすっと……


司は、色柄物と白いシャツを一緒にし、洗濯ネットも使わず洗濯機を回してしまった事がある。脱水が終わり、真っ白でなくなったシワシワのシャツを見た香澄が、絶句したのはごく最近の事だ。


……余計な仕事増やしちまうみてーだし……怒られちまうからなぁ……


薄いグレーがかった色に染まってしまった事は、諦めるしかないだろう。だが、乾いたシワシワのシャツはアイロンをかける時間が長くなる。香澄は普段、脱水を途中で止め、シャツを取り出しアイロンをかけていた。仕方なく、もう一度水に浸し、脱水し直す事になったのだ。

司はそれを不思議そうに見ていたが、香澄の顔が強張っていることに気付いていた。まるで、“わたしがやるから!勝手なことしないで”と言っているようで、身体から怒りのオーラを感じたのだ。


…………食器洗うくれーなら、手伝ってやれるけどな……


……俺…料理出来ねーし……





……暇なんだよな…………


カフェの手前で信号は赤に変わり、司は横断歩道の手前で車を停止する。前を走っていた車は、次の信号にかかったのか、減速している。その車がカフェの前あたりで停車したのを見届けると、司はカフェの前に視線を移した。その時――


…………あ″?…あれ……誰だ?……


司の瞳から、鋭い光線が飛び出した。その光線は、カフェの前に立つ香澄と、その隣に立つ男に向かっている。


……話かけてんじゃねーぞ…


ハンドルを握り潰すかのごとく握りしめ、鋭い眼差しは、二人、いや男に突き刺さる。時折、横断歩道を渡る歩行者で遮られながら、断続的に見える香澄と黒髪の男。


…………?……知り合いか?…………


良く見れば、香澄の顔は強張っているようだが、口が動いている。司は、香澄がナンパを相手にしない事を知っていただけに、胸騒ぎを覚える。


……ナンパじゃねーってことは……誰だぁ?…………


…………話なんかしやがって…………


…………ったく、信号!!早く変わりやがれ!!…………


“タンッ”と、目の前にあるハンドルを叩く司の目には、長身の黒髪男が頭をかきながら笑う姿が映っていた。香澄は、時々、黒髪男に視線を向けている。香澄と同年代の若い黒髪男、二人並んでいる様は、どこか恋人同士にも見て取れる。


…………っ…………


…………クソッ……


司は、奥歯を噛みしめた。



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