「ん、ありがとう」

香澄は、振り返りながら穏やかに微笑む。奈津美は、その笑顔につられたように笑みを浮かべた。

「なに?…あたし、何もしてないよ?」

「ううん、何だか元気でた」

「ハハッ……何か、あんた変わったね……」


……香澄…ちょっと強くなった?……


……司さんと出会って……だよね?……


……毒舌ミナガワのせいじゃないよね?……


奈津美は、“ミナガワ”と言いそうになり口をつぐむ。今日の事に限らず、司に出会ってからの香澄は、笑顔が増え、明るくなったように感じていた。柔らかい印象になったのは、ヘアスタイルが変わった事もあるが、それだけではないだろう。

「何が?」

「え?!…あ、強くなったなと思ってさ、ま、前からあんたは強いけど……」


…………二年も愁先輩を思い続けたんだよ…………強いよ…………


…………一方的に別れてくれって言われたのにさ…………


…………真っ直ぐって、強いよ?……けど、折れやすい……


…………だから心配なんだけどさ…………


信じていた愁に裏切られる形になった時、香澄は簡単に折れてしまった。奈津美は、そんな香澄を知っているからこそ、気がかりなのだ。

「強い?そうかな……奈津美に助けてもらってばっかりだよ?」

香澄は、自分に自信が持てたのかもしれない。奈津美や司がいてくれることが、転べば抱き留めてくれる存在がある事が、香澄の中の何かを変えているのだろう。

「香澄はもっと言いたいことを言っていいと思うよー、罰(ばち)は当たらない!!…何かあったらあたしがいるし!…あたしは世話焼くの好きだし……たぶん世話好きな“おばちゃん”になると思うわ!……」

奈津美は、香澄の肩に手を乗せ、言い切った。

「良かった奈津美が奈津美で」

「は?…あんた、たまに分かんないこと、言うよね」

奈津美は不思議そうに香澄を見つめる。香澄は、はにかむ様な笑みを見せた。

「はははっ」


……何だか……心が軽くなった気がするよ……


二人は門の前まで一緒に歩き、香澄は海堂の車に、奈津美は晃の車に乗り込み、大学を後にした。





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