Second Moon Ⅱ~六番目の月16~
答案用紙の回収が終わると、
「弥生見つけてノート返してもらわなきゃね」
奈津美はそう言いながら立ち上がり、弥生達の座る座席に向かった。香澄は、その後ろ姿を見送りながら、両手を握りしめる。皆川が呟いた“面倒くさい”と言うひと言が、再び香澄の胸を叩く。
…………奈津美、いつもごめん…………
……面倒くさい…って、思われたくないよ…奈津美にも司にも……
胸から喉に向かい、熱い何かが込み上げる。香澄は、握った手に力を込め、何かに背中を押されるように口を開いた。
「あ!待って、私が行く」
振り返った奈津美は目を見開いた。
…………えー?大丈夫?…………
香澄は、真剣な眼差しで奈津美を見詰めている。奈津美は、まじまじと香澄の顔を凝視してしまう。香澄は、今まで、苦手な弥生達に自分から話しかけることはなかったのだ。ノートは何度かコピーを頼まれていたが、自分から返してくれと言いに行かなかったために、困った事になった事もある。
香澄は、何かふっきれたように微笑むと、奈津美を追い越し歩き始める。呆気にとられたまま、しばらく立ち尽くしていた奈津美だが、はっと我に返り、香澄の後を追いかける。香澄は、背中に温かく心強い力を感じながら弥生の方へ足を進めていた。
弥生は退室の準備を終え、隣に座る恵理子と共に出るタイミングを見計らっていた。が、香澄の視線に気づき、その後ろに奈津美を見つけた途端、先ほど閉じたばかりの鞄を開ける。慌ててノートを取り出し、近づいてくる香澄を待った。
「えっと…弥生ちゃん…」
香澄が声をかけると同時に、
「ありがとう。助かった!」
弥生は勢いよくノートを差し出した。弥生の笑顔と相反し、隣にいる恵理子は横を向き、二人のやり取りに気付かない振りでもしているようだ。
……私、何かしたかな…………
香澄は、恵理子をちらりと窺い、胸に小さな痛みを感じたが、差し出されたノートを受け取りながら、弥生に会釈する。
「また明日ね!」
弥生に向かってそう告げると、香澄はそのまま弥生達に背を向けた。奈津美は恵理子を見ていたようだが、
「帰ろー帰ろー寒いしねー!」
その場の空気を変えるようなおどけた口調と共に香澄の背中を押した。
…………恵理子、なんで香澄が気に入らないんだか…………
…………ま、香澄だけじゃないけどさ、……恵理子が気に入らない子は…………
…………あたしだって、陰で何言われてるか分かんないし…………
奈津美がそんな事を考えながら歩いていると、香澄が急に立ち止まった。
「おあービックリしたー…どうかした?」
奈津美は車内で急ブレーキをかけられたように、前のめりになる。
-16-