Second Moon Ⅱ~六番目の月11~
結局、その後、愁は香澄には近付かなかった。近付けなかったのかも知れない。キャンパスでも、会わないように気を使っているかのようだった。奈津美も、香澄を気遣い、愁や晃の学部付近は避けて通るようにしていた。
怒りの治まらない奈津美と、頑なな愁との間を取り持ったのは晃だ。奈津美は、晃を通じて愁の近況を聞いていた。少しずつ本心を明かし始めた愁が、奈津美の怒りを助長させたりもしたが、晃が機転を利かせて言葉を選んだせいか、時間と共に穏やかな友人関係に戻っていたのだ。
奈津美は、何度も迷ったが、結局香澄には言えぬまま、愁との約束を守ってきた。香澄は、今でも愁には年上の彼女がいると思っているだろう。
司に出会い、香澄はようやく愁の事を思い出に出来たのではないか、奈津美はそう感じている。今の香澄なら、聞いても深く傷ついたりしないのではと思ったが、言わない方がいい、そんな気がして口を噤むのだ。
…………あの頃の香澄、……見てるこっちが辛かったし…………
別れたその日、香澄は放心していたのだろう。奈津美の携帯が受信した香澄のメールは、普段通りだったのだ。自分の中の自分ではない誰か別人がメールを読み、普段通りに返信していたのではないだろうか。
次の日以降は、消えてなくなるのではないかと言うくらいの落ち込みようだった。
…………愁先輩……これから、どうするんだろう…………
…………就活…死に物狂いで頑張ってたって言ってたし…………
「なつみ?」
奈津美は、香澄が自分を呼ぶ声が耳に入らないほど、物思いにふけっていた。
…………香澄が結婚した事、知らないんだよね…………
………言えないしさ………
……止めようがなかったし……あたしだって…聞いた時は、目ん玉飛び出すかと思ったくらいだし……
「ねぇ奈津美!」
香澄は、身を乗り出した。遠くを見ながら考え込む奈津美に顔を近づけ、もう一度呼びかける。
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