“ブーッ…ブーッ…ブーッ――”という鈍い音が鳴り響く。

「香澄、携帯鳴ってる」

「……あ」

香澄は、慌ててカバンから携帯を取り出した。奈津美は、香澄が携帯画面を見た時の表情から、相手が誰なのかを悟る。

…………また司さん?…………

奈津美は、学祭以来、このシチュエーションを何度となく見て来た。授業と授業の間にある休憩は、二十分。毎回ではないにしても、一日に何度もメールをして来る司に、奈津美は呆れていた。

…………用があるわけでもないのにさ…………

…………過保護だよね…………

携帯を開き、微笑みながら返信を打ち込む香澄。奈津美は、その姿を横目に見ながら、ふと最近晃から聞いた話を思い出す。

…………あたし……本当に言わなくていいのかな…………

……そろそろ愁先輩……卒業だしさ……

そう、奈津美は、香澄に内緒にしている事があった。



あれは、大学一年生の夏の終わり――――――――



―――――香澄と愁がまだ付き合っていた頃のこと……





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